ニラニスタ発・蹴球思案処

蹴辞逍遥・晴蹴雨蹴

『サッカー店長の戦術入門』

サッカー本 0113

 

『サッカー店長の戦術入門』

「ポジショナル」vs.「ストーミング」の未来

著 者 龍岡 歩

発行所 光文社新書

2022年2月28日発行

 

日本はサッカーの中でも特に戦術が好きな民族である。長い年月にわたり多くの戦術本が出版されている中で、ここ2、3年内で一番インパクトのある本が『サッカー店長の戦術入門』である。分かりやすい文章でありながら内容にパンチ力がある。鋭い分析と深い洞察から導かれる著者の独創的な結論が、新鮮かつ斬新である。

 

Jリーグ開幕戦に衝撃を受け、12歳から毎日ノートに戦術を記し徹底的に研究。サッカーを観る目を鍛えるため、19歳から欧州と南米へと放浪の旅に。28歳からサッカーショップの店長を務めるとともに、ブログ『サッカー店長のつれづれなる日記』を始める。超長文の記事が評判となり、現・スポーツX社に鋭い考察を評価され入社。サッカー未経験者ながら、当時同社が経営していた藤枝MYFC(J3)の戦術分析長として4シーズン在籍。現在はJFL昇格を目指すおこしやす京都ACの戦術兼分析官を務める。

 

興味深い人生を歩む著者が初めて出版する本であり、3部・13章の構成となっている。その中でも、第1部「現代サッカーの異常な発達」は必読である。個人的にも著者と意見を同じくするのだけれど、2010年代は、100年のサッカーの歴史の中でも、異常と思えるほどに急速に戦術が進化したと思っている。サブタイトルにあるとおり「ポジショナル」vs「ストーミング」の歴史、または打倒バルサ、打倒ペップの歴史であるといっていい。

第3部の「現代サッカーはどこにいくのか」も必読であり、著者の戦術眼、意図、洞察を汲み取りたい。

 

今後の流れとして、従来の定点的なポジションに縛られた平面的なプレイヤーはますます時代に淘汰されていくと考えられる。いかにポジションの束縛から自由に振舞い、自らの判断によってピッチ上に現れては消える「未来のスペース」から逆算したポジショニングを取れるか。それを可能にする選手こそが主役になっていくのではないか。

 

この本が魅力的な理由の1つとして、分析する着眼点とサッカーに対しての表現の仕方が、読者を引き付けるのではないかと思える。今までにない表現は、試合全般、また局面における言語化、可視化に成功していて、これまでのプロの分析にはない読ませる文章である。結局は、著者はプロの戦術官になってしまったけれど、12歳の時に見たJリーグの開幕戦に衝撃を受け、そこからのサッカーと共に歩む人生は「まえがき」に書いてある通りである。「人生の中にサッカーがある」のではなく、「サッカーの中に人生がある」のである。