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『サッカーと私』人生をともにした40年の旅

サッカー本 0108

 

『サッカーと私』人生をともにした40年の旅

著 者 金子勝彦

発行所 ネコ・パブリッシング

2002年5月7日発行

 

スポーツアナウンサー金子勝彦さんが8月20日に亡くなった。サッカーの実況では草分け的存在で、昭和のサッカー少年にはお馴染みだった「三菱ダイアモンドサッカー」は、金子勝彦さんなしでは語ることができない。金子勝彦さんを悼み日本サッカー協会、Jリーグからも哀悼の意が表された。

「サッカーを愛する皆さん、ご機嫌いかがでしょうか」という名セリフと、優しい語り口調の実況は、今も耳に残っている。

 

この本は日韓ワールドカップ開催直前に出版された。サッカー愛に満ち溢れた著者の40年間の想いが詰め込まれている。この本のすごいところは、文章を読んでいると、まるで金子勝彦さんが傍らでしゃべっているような感覚にとらわれることである。金子勝彦さんしか表現できないような文章、サッカーに対しての言い回しが随所に見られる。

プロローグでいきなり「三菱ダイアモンドサッカー」に触れている。20年間の司会・実況は当時の僕に影響を与えただけでなく、本人も転機となった番組だった。

 

私自身も、サッカーには民族の熱い血潮が流れ、それはその国の気候や風土などすべてのものが、時の流れの中で培った文化であることを学び、毎週、新鮮な感動を憶えていた。~略

そして放送を通じて、その国の人々とよりよく理解し合うひとつの基盤として、スポーツがあり、なかんずく人類共通の同質文化としてのサッカーの普遍性に、深い感銘を受け、サッカーは国際性を涵養するための一般教養でもあると思った。この思いは、今も変わらない。

 

色々な場所で耳にし、目にしたことがある歴史的な出来事が著者の視点から語られ、その愛情の深さと優しさに感動する。

ルーマニアの握り飯」は名エッセイであり、日本代表の歴史的証言でもあり、とても貴重であると思われる。1982年の日本代表が欧州遠征に行き、ルーマニアの首都ブカレストでの出来事である。ホテルで食事の質・量が不十分で、在ルーマニア大使館の大使に日本食の差し入れをお願いにいった逸話である。心温まる日本代表のスタッフ、選手の心使いに感動する。

 

僕が個人的に好きなエッセイは、「川からの伝言」である。国語の教科書に載ってもおかしくはない、子どもも大人も深く考えさせられる文章である。金子さんしか書くことのできないサッカーにまつるわる話である。

著者の紹介の中で、愛読書はヘルマン・ヘッセとあり、僕も大好きな作家なので、嗜好が同じだったことは素直にうれしい。

記憶や心の奥にとどめておくのではなく、これからのサッカーに関わる人たちに、著者金子勝彦のサッカーへの情熱と愛情は伝えていかなければいけないと思っている。

 

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