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『やらなあかんことはやらなあかんのや!』

サッカー本 0090

 

『やらなあかんことはやらなあかんのや!』

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著 者 上田亮三郎

発行所 (有)アートヴィレッジ

2012年1月28日発行

 

小嶺忠敏先生が人生の師と仰ぐ、元大阪商業大学サッカー部監督の上田亮三郎の著書である。大商大サッカー部の指導を通しての人間味あふれる厳しい素顔が、本の中に詰まっている。

 

上田亮三郎は、FIFA主催の第1回コーチングスクールの受講生である。その時の講師がデットマール・クラマーだった。1969年、日本での開催されたスクールの日本人の参加者は12名だった。上田亮三郎はデットマール・クラマーのサッカー指導に多大な影響を受けている。本の中にはクラマーの言葉が随所に登場する。

 

クラマーさんから「君たち指導者にとって何が一番大切なんだ」、「指導者が一番最初にやらなければいけないことは何なんだ」という問いかけがありました。

 

ところで「指導」とは何でしょうか。これをコーチングスクールでクラマーさんから質問されて答えらえませんでした。

 

大商大を指導するにあたり、ありとあらゆる勉強をし、良いものは取り入れ、時に失敗をしながら、独自の指導哲学を構築していく。小嶺先生を筆頭に、大学で上田亮三郎の指導を受け、その後のサッカー界に大きく影響を及ぼしている門下生はたくさんいる。上田亮三郎が兼ね備える強烈なリーダーシップ、情熱、選手との信頼関係など、その人間性に共感を覚える人は多い。

現在の大商大の白×黒(縦縞)ユニホームは、上田亮三郎から始まった。その影響は高校のユニホームまで影響している。小嶺先生の母校の島原商がそうであり、前橋商もそうである。小嶺先生は国見ユニもその名残りから色を変えて縦縞にしている。

 

もちろん専門性も兼ね備えている。「いいパスとは?」の節では、なるほどと思わせる論を展開していて、しっかりと言語化されている。「画一的指導の危うさ」での持論も興味深い。

科学的な分析、細分化されたトレーニング法、サッカー上達のありとあらゆる情報が氾濫している現在、原点に返る意味で、この本は読む価値のある1冊である。

 

 

付記

僕の中学のサッカー仲間が大商大でサッカーをしていた。その当時の練習を聞いた時の衝撃は今でも忘れられない。上田監督という人はどんな人なのだろうと恐れていた。そのようなこともあり、この本の好きな箇所を載せる。

 

食事をする時のいいポジション、ふさわしいポジションというのがあります。

御殿場で1軍が合宿した時に、指導者が集まって一杯やろうかということになったのです。私が風呂から出てきたら、ほとんどがもう座っていて、そこで静岡学園の井田君が何か言っているのです。「お前がそこに座るのは20年早い」と若い指導者に呼び捨てで叱りつけていました。私のために席を空けておいてくれて、用意した席の横も2つ空いているのです。片方がウチの吉田部長、もうひとつに支配人の阿部さんを座らせようとしていたようでした。

その若い指導者は、私の横が空いていたので座っていたのです。そこで井田君がそこに座るなと叱ったわけです。~略

いいポジション、またはふさわしいポジションというのはスポーツに限らずどんな時にもあるし、とても大事なのです。