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『明治発、世界へ!』

サッカー本 0081

 

『明治発、世界へ!』

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著 者 栗田大輔

発行所 竹書房

2021年5月7日発行

 

大学サッカーの監督本が出ることはめったにない昨今、久しぶりに出版された新刊である。2015年に監督に就任して以来、6年でタイトルを10個、プロへ50人以上を輩出している監督とあれば、注目されない訳はない。

この本に注目するのは、もう1つ理由がある。それは著者の栗田監督が僕にとっては、他の監督より身近な存在であるからである。明治大学サッカー部時代に仲の良かった仲間がいて、「今度、クリが監督になりました」と話したことがあった。栗田監督は清水東高出身で、大学時代からサッカー以外でも仲が良かった仲間がいたので、清水東高出身の監督と言うだけでうれしかった。

 

明治大学サッカー部での監督手腕、選手育成、ポリシー、トレーニングのことは本を読んでもらえば分かるので、僕が個人的にヒットしたところを挙げる。第4章の「ルーツはサッカー王国清水」である。

 

私は静岡県清水市(現・静岡市清水区)の生まれです。父親が清水東高校の出身で、全国大会で初優勝した時のメンバーでした。

サッカーに対する熱の強い地域でしたので、父親の影響もあってサッカーにのめり込みました。

小学校低学年の頃から、週末になると父親に連れられて、清水東の試合を見に行く日々。愛媛県松山市で開催されたインターハイでは、現地で清水東の優勝を見届けたこともあります。

~略~

後に私が明治の監督になり、松本山雅FCと練習試合をしたときのことです。当時の反町監督に「お前、東高だよな?」と言われました。

私は「はい。反町さんが現役の時、見に行きましたよ」と言って、「当時のゴールキーパーは膳亀(信行)さんで・・・」と、右サイドバックから全ポジションの選手の名前を行ったら「お前、すごいな」とあきれられました(笑い)。

そのときに、「東高の選手はみんな『ボンロク』のスパイクを履いていましたよね」と言うと、「昔の子って、そういうことよく覚えているよな」と感心されました。

~略~

高校時代の恩師は勝澤要先生です。勝負に対するこだわりがとても強い方で、練習には常に張り詰めた緊張感が漂っていました。清水東の先輩はユース代表(年代別日本代表)に選ばれている、ハイレベルな選手ばかり。勝澤先生は何も言わずに、選手達のプレーをじっと見ているんです。トラップ一つするのにも緊張するような、あの空気はたまらないものがありましたね。

チームとして本気で全国優勝を目指す集団で、隙がありませんでした。私が明治の監督になったときに、「あのときの清水東のような集団にしたい」と、真っ先に思いました。

 

サラリーマンとして仕事をする傍ら、サッカーの指導もして、なおかつ学ぶ姿勢も貪欲である。2018年には早稲田大学の『スポーツMBAエッセンス』という講座に通った。あとがきにある通り、コロナ前の20年2月にアメリカ研修に参加している。

 

成田に帰国後、空港から静岡県藤枝市で行われる明治の合宿に参加し、2020年シーズンも当たり前に始まるものと思っていました。

しかし2月中旬、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、当たり前が当たり前でなくなりました。サッカーをやる当たり前、スタジアムやアリーナでスポーツを観ながら声援を送り、感動を共有する当たり前、仲間と食事をしながら、笑って語り合う当たり前など、すべてが変わりました。

スポーツ(競技)やエンターテイメントは、人々が生きていくうえで絶対に必要なものではないと思っていましたが、コロナを通じて一番感じたことは「スポーツやエンターテインメントは、人々の生活に絶対必要なものである」ということです。

健康のためはもちろんですが、人々が何かに夢中になり、心が揺さぶられること。同じ思いを共有すること。感動したり笑ったりすること。同じ目標・目的に向かって全力で取り組む時間などには、人の心を育む力があります。

それは生きる力や活力、コミュニティを生み出します。

 

書かれていることの多くが、共感できることである。想いの詰まった本に仕上がっていると思う。これからも目の離せない指導者の一人である。