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『サッカーと11の寓話』

サッカー本 0076

 

『サッカーと11の寓話』

 

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著 者 カミロ・ホセ・セラ

訳 者 野谷文昭 星野智幸

発行所 朝日新聞社

1997年5月1日発行

 

 

スペイン代表やFCバルセロナレアルマドリードなどの大きな入口から、サッカーそのものを学び、またその国の歴史(主に近現代史)を学ぶ機会に恵まれ、そしてその国の文学にまで触れることになった。サッカーからつながる広がりを学ぶことは楽しいし、その入り口となったサッカーに感謝している。

 

1987年にノーベル文学賞を受賞したスペイン作家カミロ・ホセ・セラがサッカーについて書いた本である。ノーベル賞作家がサッカーの本について書くことはほとんどなく、とても珍しく貴重な本である。

 

タイトルが11の寓話とあるので、内容はもちろん11のストーリーからなるサッカー寓話が集められている。読後感がとても不思議な気分になる本で、作者の意図、その物語の意図を分かりにくく隠している。比喩的な表現、擬人化が効いていて、メタファーの連続、デフォルメされたユーモアや様々な感情が詰め込まれている。神話やイソップ物語と同じくサッカーを寓話に仕立てていて、不思議な本というより、よく分からない本の部類に入るかもしれない。

 

ノーベル文学賞作家カミロ・ホセ・セラをサッカーに関係付けてみると、好きなチームは「デポルティーボ・ラ・コルーニャ」と「セルダ・デ・ビーゴ」である。ガリシア地方出身なので、地元チームがお気に入りのようである(デポルティーボ・ラ・コルーニャは、柴崎岳が所属しているクラブなので日本でも馴染みはある)。

 

滅多にないこととはいえ、死神がコーナーに身を潜めていることがたまにある。決してあり得ないことではないのだ。

 

滅多にないこととはいえ、コーナーフラッグの下、つまりコーナーを示す三角旗の支柱の根元に、死が芋虫のように巣くっていることがたまにある。

 

文学そのままの本なので、カミロ・ホセ・セラの文章から影響を受けて、日本文化的に連歌っぽく、敬意を込めて文章をつなげてみたい。

 

 

「選手権優勝校、決勝点を決めたカミロ・ホセ・セラ選手です。まずは優勝おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「決勝点のPK、緊張したと思いますが、PKを蹴るときにどんなことを考えていましたか」

「何も考えていないってのは噓になりますけど、ちょっとここでは言えないことを考えてました」

「優勝に導いた1点です。言えないことはないと思います。これまでのつらかった日々のこと、ピッチに立てなかった仲間のこと。ボールを置いた瞬間から走馬灯のようにたくさんのことが思い浮かんだのではないでしょうか」

「いえいえ」

「蹴る瞬間は頭が真っ白だったということはないですよね」

「はい」

「蹴る方向を決めてそれだけを考えていたとか」

「・・・・・」

「優勝に導いたヒーローです。言っちゃいましょう」

「PKマークの下に埋まっている死体について考えてました」