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山梨学院の強さを思案する

山梨学院の強さを思案する

 

選手権で日本一となり、新人戦では選手権登録メンバー8人を起用しないで、山梨県の頂点に立った。私見としては、学院はサッカーがうまいというより、強くなった。そして存在そのものが怖さを増した。

11年前の88回大会で初出場優勝を成し遂げた学院は、その後も勢いを落とさず、関東を中心として有望な選手を集めた。選手権では、3年連続で山梨県代表となり、そこに集まる選手は全国の高校の中でも屈指だった。全国を狙えるチーム力があった。韮高はハーフラインを超えることのできない試合が続き、圧倒的な力の前に大きな得点差で敗れ続けた。日本一になってもおかしくはない注目選手が揃っていたにもかかわらず、学院は今一つ全国では力を発揮できず、県内でも代表の座を逃す年が多かった。また数年前は新チームになってから毎週、毎週、学院に胸を借りてTMをした。学院は走り込みの後のTMだったのにも関わらず、韮高は倒すことはできなかった。

学院は選手権初制覇後、さらにサッカーに力を入れ、S級ライセンスをもつ監督を起用した。何人ものS級監督が指揮を執ったけれど、望むような結果は出なかった。インターハイはタイトルを獲ったものの、プリンスリーグからは降格した。

そして昨年、学院が選手権で全国制覇をして以来、公式戦で初めて韮高が学院を倒した。県総体、インターハイと2勝した。いよいよ韮高の時代なのだろうかと思いきや、学院はシフトチェンジをして再生中だった。S級ライセンスを持たない長谷川監督を起用。逸材を集めて、「サッカーだけを教えていても勝てない」ことに気が付いたようである。長谷川監督は就任2年目にして選手権日本一という結果を出した。

僕は山梨学院が日本一になってからの、長谷川監督のインタビュー記事(2021.1.18)を読んで、また学院一強の時代が到来するのだろうかと怖くなってしまった。新人戦の結果を注目していたら、しっかりと新人戦のタイトルも獲った(11年前は新人戦は負けていた)。

 

なぜ山梨学院・長谷川監督は「真の日本一になろう」と伝えたのか? 異色の指導歴で手にした武器 | REAL SPORTS (リアルスポーツ) | スポーツの"リアル"を伝える (real-sports.jp)

 

長谷川:大学サッカーを経験したので大きな戸惑いはありませんでした。高校生よりもやんちゃでサッカー面でもレベルが高い子と接してきましたし、秋田商で高校生の指導もしていたのであまり迷いはなかったです。むしろ、山梨学院の選手は逆に高校生らしくないと思ったんです。サッカー以外で、もっと大事にしないといけないことが他にもある。(過去に対戦した)高川学園高や米子北高は礼節を重んじるし、おもてなしの心を持っていました。それが高校サッカーの良さ。一方で山梨学院はサッカーが主にありすぎたんです。スキルが高い子はいる。でも、それは自由奔放な上に成り立っていて、厳しい局面で発揮できるスキルではない。大学サッカーはもっとうまい選手がいるけど、そういう子たちが試合に出られないことなんてザラにあります。うまくいかない原因に気づかせてあげられれば、大学で成功する可能性が広がるはず。それを教えていけば、真の日本一にもなれるのではないでしょうか。

 

長谷川:「真の日本一になろう」と就任した時に言ったんです。「サッカー面で日本一にはなっている。だから、俺たちの目標は真の日本一」。では、真の意味はなんだと。そこで4つ挙げたんです。サッカーだけではなく、ピッチ外でも日本一にならないといけない。なので、“心技体和”が大事だと伝えました。学業も私生活もおろそかにしてはいけないし、チームワークでも日本一にならないといけない。だけど、真の日本一を目指すことは簡単ではない。綺麗事になりやすいし、難しいんです。私たちも精進すると簡単に言いますが、人間だから我慢できないこともたくさんあります。でも、他の学校を見ながら、「もっとこうしないといけない」と思うことがたくさんあります。変わるためには少しずつ時間をかけて、何か変えていかないといけない。就任後はそこに取り組みましたね。

  

長谷川:寮に住み込んで指導しているスタッフがいるので、しっかりと生活できていると思います。ただ、秋田商の規律が10だとすれば、山梨学院は5。今でもそれぐらいでしかないと思います。とはいえ、規律やルールは学校や地域の文化によるんです。自分たちの生活規範が一番だと思い、他チームを批判する場合も少なくありません。そういう見方をする上で、圧倒的に足りないのは文化。

 

気になったインタビューを抜粋したけれど、青森山田に競り勝つ強さはこういったところだと思っている。何よりも脅威を感じたことは、監督のインタビューから「文化」という言葉が出たことである。最近、Jリーグの解説でも「文化」という言葉を発する解説者がいるけれど、高校の指導者からそのような言葉が発せられたことは注目すべきである。いよいよ高校サッカーにもサッカーをスポーツという枠組みで捉えるのではなく、文化として捉える指導者が出てきたと思える発言である。サッカーだけに焦点を絞らず、総合的な視野で育成するスタンスは賞賛できる。

Jの下部組織の育成者が一番足りないところであり、日本サッカーの指導者はサッカーだけを教えているだけでは3流以下になってしまうことを暗に警鐘しているようである。単純に考えても、サッカーの上手い選手は、さらにサッカーを教えるのではなく、人間としての成長を正しく促しさえすれば、サッカーは更に上達する。

学院の長谷川監督の視点、そして行動力、選手達の導き方、アプローチの仕方は学ばなければならない。学院が初制覇から紆余曲折からたどり着いた現在地である。

以上が学院の強さ(要因の一つ)の思案である。韮高からすれば、恐ろしいほどのライバルである。おそらく上手いうえに、力強いサッカーをするので、敵としてはやりにくいチームである。どのように闘いを挑み、勝利を掴むかを考えるのも、サッカーの愉しみの一つである。まずは学院に挑戦できるところまで勝ち進むことが第一である。やりようによってはまだ勝てる相手なので、100回大会までの道程を愉しみながら追って行きたい。