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『三浦兄弟』僕とカズ サッカー少年漂流記

サッカー本 0102

 

『三浦兄弟』
僕とカズ  サッカー少年漂流記

著 者 三浦泰年

発行所 集英社インターナショナル

2010年9月29日発行

 

日本では知らない人がいない有名人となった三浦知良。その兄、三浦泰年の本である。個人的には、カズの兄としてではなく、昔から大好きだった選手(ヤスさん)の本として紹介したい。この本は、ヤスさんのサッカー人生を知ることのできる貴重な資料として読むことができる。

小、中時代のサッカーから始まり、静学時代、ブラジル留学、読売クラブ時代、J開幕(エスパルス時代)までが5章で構成されている。6章からは単身での福岡時代、カズのこと、引退後のことと9章まで続いている。45年間のサッカーと共に生きてきたその生き様は、同時代に憧れの存在だった僕としては、心打たれるものがある。また「なるほど、当時はそんな感じだったのか」という発見もある。

 

僕が15歳になるまで、僕たちの姓は「納谷」だったが、両親が離婚したことにより、高校進学が近づいたある日、僕たちの家族の姓は母方の「三浦」になった。~略~ 唯一、覚えているのは、静岡学園に入学した際、名字の変わった僕を一番最初に「三浦!」と呼んでくれたが、静岡学園サッカー部井田勝通監督だったということだ。井田さんは僕の親父の静岡高校時代の同級生。子どもの時から僕を当然のように「ヤス!」と呼び、可愛がってくれていた。だが、高校への入学が決まり、初めてサッカー部の練習に参加した日に、井田さんは僕の家族の事情を知る仲間、知らない仲間の前で、僕のことを一般的に認知されていた「納谷」でも、いつもの「ヤス!」でもなく。「三浦!」と呼んでくれたのだ。

~略~ 以来、僕たち兄弟は、三浦泰年三浦知良として生きてきた。

 

静学時代の話はかなり興味深い。「使い走り」や「お付き」や「集合」の話がある。古河フェスティバルでの韮高の記述もある。最後の高校選手権決勝は、もちろん熱く語られている。

父親のこと、母親のこと、妹のこと、カズがブラジル留学を決心した時のことの文章は、長男らしさがにじみ出ている。またカズの旅たちの日のことは、母親の本と読み比べると味わい深いものがある。

ブラジル留学は、ヤスさんにとって挫折の連続で相当つらかった日々だったことがうかがえる。その逆に読売時代は家賃2万(風呂トイレ共同)でありながら、ブラジルに住んでいたところと天と地の差があった。オフ・ザ・ピッチの思い出は楽しそうである。

これまでもそうだったように、Jリーグ開幕からもヤスさんの熱い気持ちが伝わってくる。ドーハの悲劇、カズの代表落選の熱い想いは、強すぎる想いがあるだけにそのショックは大きい。

高校時代はライバルだった長谷川健太大榎克己堀池巧の3人や静岡学園の同期の向島建などと、プロとして一緒に闘えた清水エスパルスでの時間は、僕のサッカー人生においても最もパワーが溢れ出ていた時間だったように思う。

 

ヤスさんが回顧するように、エスパルス時代は輝いていた。Jリーグ開幕からの時代は僕も多くの力をもらった。カズのお兄さんという特別なことを除いても、『三浦兄弟』はJリーグ本の中でも完成度の高い本であり、読了後に、たくさんのパワーをもらえる本であると思う。

 

*この本はサイン本でとても大切にしている本である。