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選手権決勝 雑感

選手権決勝 雑感

 

第101回全国高校サッカー選手権大会山梨県大会決勝は、山梨学院が帝京三を倒し県代表となった。山梨学院は3年連続9回目の出場となり、県内3冠も成し遂げた。

学院のすごさを勝手に思い浮かべてみる。まず思い浮かぶことは、3年連続して航空、韮高、帝三と相手は違うものの、決勝では先制点を奪われているという点である。タイトルの懸かる試合では、先制点が何よりも欲しい。先制点を奪ったチームが圧倒的に勝つことが多い。学院は劣勢から、同点に追いつき、試合をひっくり返すことができる。その点は本物の強さがあると言って良く、すごいところである。

帝京三の守備はそう簡単には点が獲ることのできない強度があり、組織的にも整ったバランスの良いディフェンスだった。学院が自分たちのサッカーをやろうと思って試合に臨めば、帝三のプラン通りだったような気がする。おそらく帝三は相手のやりたいサッカーをやらせないサッカーを作戦として練っていた。

学院ははっきり言って、それほど強くはない。もちろん選手個々、選手層は山梨県でもトップである。ここ数年は隙のあるサッカーをし、勘違いしているような雰囲気さえ感じた時もあった。それでもなおタイトルは獲っていて、しぶとさを年々身につけている。その点もすごさの1つである。

学院のチームマネジメントとその土壌は整備されつつある。いわゆる風格とか伝統とかの類のものを、チームそのものが確実に力として蓄えていることが見て取れる。

チームが成長を止めずに成長し続けている点、次から次へとチャンスをつかむ選手が出てくる点は、学院のチームとしての大きな強みである。そのような風土を創り出すことは簡単ではない。

羽中田監督のゲームコンセプトも大きな勝因だった。羽中田さんがバルセロナ、ポジショナルプレーへの嗜好を持っていることは誰でも知っている。インタビューの記事の中からも読み取れる。どのチームもセカンドボール(どちらでもないボール)を自分のモノにすることは意識して取り組んでいる。学院は「セカンドボールをどういう体の向きで回収するか」ということがトレーニングの1つのテーマとしてあったということが、羽中田さんのインタビューで分かる。(量的・質的・位置的)優位性という概念の中で、「体の向き」はそれ以前のコンセプトであると思われる。ボールを保持した時(パスを受けた時、奪った時)の自分の体の向きは、チームにとって優位性を担保できているかという視点では、より良い体の向きの選手にシンプルにボールを預けることが最適解である(これはチームのゲームモデルにより異なる)。

1つ先を考えて、セカンドボールを回収した後に、何をするのかというところまで意思統一されているチームは少ない。細かい局面を見て行けば、やろうとしていることは小学生も中学生も高校生も変わらない。選手目線では、「そうは言っても球際で全力を出している瞬間に、体の向きなんか意識していたら、たちまち敵にボールを奪われてしまう」と言いたい気持ちも分かる。実際、100%の力を出している時に、次のことを考えることは訓練しても難しい。やはり日々のトレーニングの積み重ねの大切さを感じることができる。

どちらが勝ってもおかしくはない試合、難しい試合で、勝利をたぐり寄せることは簡単ではない。今回の県大会は、山梨学院が総合力で勝ち取った。負け惜しみではないけれど、まだ学院を倒せる射程圏内にいると思うし、思いたい。

 

 

 

 

私がサッカーを愛してやまない理由の大きな部分は、このスポーツが非常に主観的であるという点だ。誰かと隣同士で座って同じ試合を観ていたとしても、スコアという客観的真実を除けば、試合中に起こったことについて大きく異なる受け止め方をするかもしれない。それは必ずしもどちらかが間違っているということでなく、単純に異なる視点を持っているだけだ。

リー・スコット