サッカー本 0097
『フットボールの原点』
著 者 吉田文久
発行所 創文企画
2014年1月8日発行
前出の『オフサイドはなぜ反則か』の著者中村敏雄氏から助言を受け、民族フットボールへの研究に目覚め、この本が書かれた。文献を基にした研究本ではなく、実際に行われている民族フットボールを現地に行って目にした考察が著されている。
欧米からサッカーの技術や戦術、戦略や作戦を優先して学ぶことは、サッカーの上部だけをなぞっているだけであり、サッカーに限らず文明開化以後、その必要性からそれ自体の意味や価値を問う視点や方法をないがしろにしてきた。欧米文化だから先進文化であるはずだと考えて、何でもかんでも受け入れることを改めて、奥深く掘り下げることが必要である。と本書の中で訴えている。
スポーツの語源や理解を欠いてスポーツを移入することの落とし穴は、ゲームのプレイ方法としてルールを翻訳するのにとどまり、ルールに込められた精神まで読み取る作業を怠ることである。
勝ち負けを超えて、サッカーのもつ豊かな文化的世界を受け止め、サッカーのおもしろさを十分に享受するところまでたどりついたとは言い難い。それはサッカーが有する歴史的、社会的、文化的価値に豊かな内容を研究レベルで整理されたものは示されず、またその文化的価値を位置づけた指導者教育が進んでいないということである。
中世から行われていた民族フットボールを研究するこの本は、現代サッカーを受け入れ、理解することの手助けになる。アソシエーション・フットボールになる過程は多くの文献と資料がある中で、その原点を探る本は少ない。根源的な意味で、ルールとか表面的な部分ではない、精神性だとかサッカー(=フットボール)の源流を知ることの重要性に気づかされる。サッカーそのものをより一層理解し探究することで、サッカーを受け継ぎ、伝える存在となることの「後代的視点」までもを考えさせられる本である。
本書に出てくるイングランドのアッシュボーンで行われている民族フットボールの映像がある。この土地は2003年にチャールズ皇太子が始球式を行ったことで、多くの関心が集まっている。
YouTubeの映像は今年、2022年に行われた民族フットボールである。