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『オレンジの呪縛』 オランダ代表はなぜ勝てないか?

3月サッカー本
 
『オレンジの呪縛』 オランダ代表はなぜ勝てないか?

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著 者 デイヴィット・ウィナー
監 修 忠鉢信一
訳 者 西竹徹
発行所 講談社
2008年7月7日発行
 
サッカー本の中で、この本は名著の一冊に間違いなく入る。原書は2000年に書かれた。著者のデイヴィット・ウィナーは、名著『美しく勝利せよ』の英訳も行っているイギリス人ジャーナリストである。
 
僕はナショナルチームでは、オランダが好きである。そのため必然的にこの本に惹きつけられる。ワールドカップ、ユーロと優勝候補に挙げられながら、必ず勝てない。タイトル通り「オレンジの呪縛」である。
 
名著と言われる所以は、オランダのフットボールに書かれた本でありながら、フットボールに無関係な物事がたくさん出てくる。そのことについて、著者は序章でこのように書いている。
 
それはこの本が、オランダのフットボールではなく、オランダのフットボールに対する「考え」を述べるために書かれたからである。より正確に言えば、私自身が感じるオランダのフットボールに対する「考え」を語ったものだ。
 
オランダの呪縛とは何なのかと考えた時、すべてのオランダ人が行き着く場所は1974年のワールドカップ西ドイツ大会のファイナル、西ドイツ戦である。先制点を奪いながらの1-2での逆転負けである。
 
脚本家ヨハン・ティメルスは、悲劇とその影響について分析した結果、「74年の敗北は、53年の大洪水と第二次世界大戦を除き、オランダ人が20世紀に経験した最大のトラウマである」と結論づけた。
オランダが西ドイツに敗れたことは、フォットボールの理想が崩壊しただけでなく、文化的、政治的楽観主義の時代が幕を閉じたことを意味していた。
 
オランダは、10年後のユーロで優勝を果たすものの、それは74年のショックを完全に癒すものではなかった。
ミュンヘンの決勝における敗北を自滅だったと考えるにしても、それでオランダ人が味わった深い喪失感を埋め合わせることはできない。だが敗れたからこそ、人を惹きつけることができるという側面もある。美しいものが悲劇的な散り方をしたあとには、不思議な魅力が生まれるものなのだ。
 
この原本が出版され18年が経っているけれど、まだオランダはその呪縛から解き放たれてはいない。最終章の「レクイエム」の最後の章は「クライフ後をどう生きるか?」である。その最後の文章が「21世紀、ヨハン・クライフがこの世からいなくなるとき、あなたはどこにいるだろうか」である。暗示的な終わり方をしている。
 
 
 
勝手ながら、「付記」ということで、この本の個人的な思いを綴る。この本の監修者は忠鉢信一である。この本の一番初めの、監修者まえがきで「ウォーミングアップ」を書いている。朝日新聞のスポーツ記者で、この本を日本に紹介した立役者である。監修者の忠鉢を僕は中学時代から知っていた。彼はジュニアユース日本代表で、僕の仲間もそこに選ばれていて、その仲間から「忠鉢」という名前をいつも聞いていた。高校は帝京に進んだ。関東大会、国体でそのプレーを見た。大学は筑波大学に進学、そこからあんまり名前を聞かなくなってしまった。新聞記者となって、また注目することになった。スポーツ記事を目にするようになり、「あの忠鉢か」とキャプテンに聞くと「あの忠鉢だ」ということだった。ミズノスポーツライター最優秀賞も受賞している強者である。帝京時代の3年間、サッカーをした仲間が山梨に居て、そちらつながりもあって、話したこともないのに、とても身近に感じてしまっている。これからも世界のサッカー名著を発掘して、日本に紹介してほしいと願う。