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『オフサイドはなぜ反則か』

サッカー本 0096

 

オフサイドはなぜ反則か』



 

 

著 者 中村敏雄

発行所 三省堂

1985年8月1日発行

 

オフサイドはなぜ反則なのだろう」と素朴な疑問をもったことのある人には、とても興味深い本である。読後、納得いくかいかないかは分からないにせよ、サッカーそのものと、オフサイドの奥深さを感じさせてくれる本であることは間違いない。

この本は2種類あって、三省堂選書として1985年に出版されたものと、平凡社ライブラリーから2001年に増補されて出版されたものとがある。どちらも定価より高値で取引されている本である。良い本なので増版して多くの人に読んで欲しいと思う名著である。

 

今の時代になってもサッカーはオフサイドというルールにしつこいくらいにこだわっている。最新機器の導入をしてVARによるオフサイドの有無をジャッジしている。

 

ここで考察しようとしているオフサイド・ルールは、それがフットボールの歴史のなかに登場してから、いろいろな相違や変遷はあったものの、その基本的な考え方は変わらずに今日まで受け継がれ、その厳しい統制力を発揮し続けているもので、そういう意味ではこのルールは、フットボールを特徴づける重要なルールのひとつでるということができ、今日ではこのルールのないフットボールは考えられず、またフットボールからこのルールを取り除けば、もはやそれはフットボールとはいえないとさえいえるほどのルールともなっている。それほどオフサイド・ルールはこのスポーツを特徴づけるものであるが、ではこのルールは、なぜフットボールのなかでそれほど重要な位置を占めるものになったのであろうか。

 

著者は、フットボールを愛好した多くの人々がこの不合理とも奇妙ともいえるルールを生み、認め、支持してきたのという精神や雰囲気の方が、重要な問題であるとする。そして、フットボールがもともと得点の多さを競うことを目的とするものでなかったことが、オフサイド・ルールを生み出す根本であると論を進める。

フットボールの起源を遡れば、非日常である祭りの要素を含んだ「マス・フットボール」から、日常的に行われる遊びの意味合いを持つ「空き地のフットボール」となり、競争、競技スポーツへと進化していった。

 

オフサイド・ルールは、そのもっと根本に、1点の先取を争うという約束があるなかで競技時間を長くするという目的から考え出されたものであろうと思われてくる。それは必ずしもドラマティックな激論のなかで生まれたのでも、ルールの普遍性を追求する中で生まれたものでもなく、むしろフットボールの伝統と、そこにこめられた民衆の喜びや楽しみを受け継いでいくという自然で人間的な行為のなかで生まれたものであるように思われる。

 

これからも時代が進むにつれ、サッカー自体も進化していく。それに伴ってオフサイド・ルールは当然、変化していくものと思われる。原点というか源流をのぞき見するには、素晴らしい本である。