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『サッカー狂い』 時間・球体・ゴール

サッカー本 0056

 

『サッカー狂い』 時間・球体・ゴール

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著 者 細川周平

発行所 哲学書

1989年1月20日発行

 

後世に残したいサッカー本の1冊をあげるとしたら、この『サッカー狂い』をあげる人は多いのではないかと思う。僕もその1人である。日本で出版されたありとあらゆるサッカー本の中で、名著中の名著である。

名著たらしめる理由は、サッカー専門家でない著者によって書かれた本であり、それでいながらサッカー(フットボール)を深く掘り下げている。その掘り下げ方がサッカー的で、長い年月にも耐えられる文章となっている。読後も、数年経ってからも体内に潜伏していて、突然サッカー的に湧き上がってくる何かを持っている本である。

ほぼ自費出版的に近いような、著者の趣味と思い入れが入り込んだ誰にも遠慮しない自由な内容と文体である。そのため野球やアメリカンフットボール、ドイツに対しては、厳しい内容となっている。

 

何よりも感服することは、この本への著者のこだわりである。

第1に本の装丁。ブックカバーはリーバーシブルになっていて、裏側のサッカー選手の写真が楽しめる仕組みになっている。また表紙も古い木をイメージする趣深いものとなっている。ページの左上にはパラパライラストで試合中のどの時間帯なのかが分かるようになっている。

第2によくここまで考えたなとうならせる考え込まれた構成である。選手入場、前半、ハーフタイム、後半、選手退場、スローインフリーキックオフサイド、ロスタイムと一応、分けられている。本を読み進めると、サッカーの試合と同じように、思うように先に進めずスローインフリーキックが突然挿入される。著者が「サッカーになってしまった本を書きたいと思った」と著しているように、そのままサッカーとなっている。

 

日本語で書かれたサッカー書物の最高峰であり、1989年(30年以上前)に書かれた本でありながら、現在も最高峰の座を譲ることのない本である。サッカーの聖典と言われても誰も否定はできない。

現在、絶版となっているので、高値で取引されている本である。文庫本で復刻してもおかしくない未来につながっている普遍的なサッカー本であると思う。