ニラニスタ発・蹴球思案処

蹴辞逍遥・晴蹴雨蹴

『ワールドカップの回想』サッカー、激動の世界史

サッカー本 0085

 

『ワールドカップの回想』

サッカー、激動の世界史

 

f:id:nirasakishikibu:20210801155234j:plain

 

著 者 ジュール・リメ

訳 者 川島太郎 大空博

監 修 牛木素吉郎

発行所 ベースボール・マガジン社

1986年5月31日発行

 

東京オリンピックが開幕した。この機会にオリンピックについて勉強することもそれなりに良いとは思う。それにも増して、サッカーの祭典、ワールドカップについてその良さを見つめ直すことの方が必要である。2つの比較は基本理念が全く違うこところからスタートした。そしてワールドカップの基本理念は、オリンピックと違い、ブレることなく現在も引き継がれている。

 

この本は日本サッカー本の中でも名著であり、世界的にも国際サッカー史の貴重な資料として第1級の価値を持っている。著者はワールドカップ創始者ジュール・リメである。オリンピックにおける(今でこそ死語になり形骸化してしまった)アマチュアリズムの解釈から、世界選手権を立ち上げるジュール・リメ本人の伝記的な要素が含まれている。

 

本のカバーに書かれている当時5代目の日本サッカー協会会長だった平井富三郎の紹介文がこの本の魅力を伝えている。

 

サッカーは、世界でもっとも多くの人が楽しんでいるスポーツです。そして、その頂点に立つプロの精鋭による4年に1度の世界選手権ワールドカップは、地球上にくまなくテレビ中継され、オリンピックをしのぐ関心を集めています。

サッカーがなぜ、これほど人気のあるスポーツになったのか、ワールドカップはどのようにしてこれほど盛大になったのか、その秘密が、ワールドカップ創始者であり近代スポーツの巨人の1人でもあるジュール・リメ氏の「ワールドカップの回想―サッカー、激動の世界史」の中に語られています。

これは、サッカー愛好者が自分たちのやっているスポーツのすばらしさを知ることのできる本であり、スポーツの関係者にとってはオリンピックのアマチュアリズムとは別の近代スポーツの考え方を学ぶことのできる本です。

 

本書の最後に監修者である牛木素吉郎が、解説を書いている。また牛木素吉郎は別の本でもこの本の出版に関するエピソードを書いていて、とても興味深い。本文が長くなりすぎるので、かいつまんで書く。

 

この『ワールドカップの回想』という本は、原書の出版から、32年経った1986年にようやく日本語版が出版された。

ジュール・リメがFIFA会長を退いた1955年に、日本サッカー協会に寄贈されていた。しかし寄贈された本はそのまま日本サッカー協会の本棚に、東京オリンピックが開催される1964年まで眠り続けていた。勤め先を退職した新田純興(日本サッカー協会設立の貢献者)が東京オリンピックの準備と日本サッカー史を書くために資料を集めていた時に、偶然に発見された。そして牛木素吉郎に翻訳を依頼する。

 

当時のフランス本は、ページの端を裁断しないで袋綴じのまま出版されている。新田さんはそれをペーパーナイフで開きながら通読されたらしい。つまり寄贈を受けてから10年間、誰もこれが貴重な本であることに気付かず、読もうともしていなかったわけである。

 

この本は僕にない視点を与えてくれた。それは「サッカーのもつ人間的価値」である。サッカーのもつ社会的価値については、様々な人が様々な持論を展開しているけれど、サッカーの持つ人間的価値という言葉はこの本で初めて目にすることになった。そのような視点では全く考えたたことがなかった僕にとっては、新しく視野が開けた本である。

  

オリンピック開催中に、商業的になりすぎたオリンピックよりも、スポーツの持つ人間的価値について考えることも必要かもしれない。