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『写蹴』 ファインダー越しに見た歴代サッカー日本代表の素顔

サッカー本 0095

 

『写蹴』

ファインダー越しに見た歴代サッカー日本代表の素顔

 

著 者 今井恭司

発行所 スキージャーナル株式会社

2010年6月15日発行

 

サッカー本を紹介する中で、日本代表本が1冊もなかった。カタールW杯の年でもあり、日本代表が6月にブラジルとの強化試合が決またこともあり、今井恭司の『写蹴』を紹介する。

 

この本は文章の多い写真集である。著者は日本におけるサッカー写真の第1人者である今井恭司である。1970年代から2000年代の40年間の日本代表の写真が収められている。写真集としての価値があると同時に、著者の文章にとても価値のある本でもある。サブタイトルにある通り「ファインダー越しに見た」視点からの文章がとても響く。

 

70年代では、75年に開催されたムルデカ大会に著者が代表2回目の海外取材の同行をした。

期間中の滞在先については、翌76年からホテルに宿泊することになるのだが、この年まで、代表チームはクアラルンプールのはずれにある大学の学生寮を利用していた。~略

宿舎で荷をほどくと、選手がまずすべきことが、バルサンなど燻煙残を焚くことだった。室内をそうして殺虫しておかないと、夜中に蚊やムカデやクモのほか、名前も知らない虫たちに刺されたり、食われたりして大変な目に遭うことになるからだ。

 

80年代は、1985年10月26日、ワールドカップメキシコ大会アジア最終予選、対韓国戦である。

日本にとって遥か彼方にそびえ立つ山の頂を、初めて垣間見たのが、この韓国戦だったのではないだろうか。

 

90年代は、Jリーグ誕生とワールドカップ初出場である。

プロ化に向けて動き出すほんの数年前まで、ワールドカップ出場は夢のまた夢だと思っていた。それは協会関係者も同様だったのではないだろうか。~略

私自身、現役で写真を撮っている間はもちろんのこと、自分が生きているうちに日本がワールドカップに出場できるとは夢にも思っていなかった。現場の感覚としては、世界との間にそれくらい差があったのである。

 

00年代は、日韓、ドイツW杯を(ちょっと専門的になる視線で)回顧し、南アフリカW杯を控えた著者の心意気を綴っている。

ひとつ言えることは、確実に日本の経験値はアップしているということである。敗戦も、明日の勝利への糧となるということを忘れてはならないと思う。

アジア大会でも、あと一歩のところで涙を飲んできた代表の姿。そんな光景を何度となく見ってきた者としては、どれも無駄ではなかったと心から感じる。多くの敗戦と数え切れないぐらいの悔し涙が、今の日本代表に繋がっていると信じているからだ。

 

もちろん各時代のその時、その時の大会の写真も懐かしく見ることができる。今でこそサッカー協会の偉い人となってしまった若かりし頃の選手時代の写真、身にまとっている代表のユニホームの変遷も楽しめる。何よりも1枚の写真で、その時の空気を感じることができる。80年代までの胸のシンプルな日の丸だけのユニは、JFAの八咫烏よりかっこいいような気がする。良くも悪くも日本サッカーの40年間を感じられる本である。

 

選手が年齢を重ねてそのプレーが熟成していくように、私たちも自分の生きてきた時間が、そのままサッカーへの関わり方に反映するのだ。自分の生き様がいつも問われる。終わりがない。