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『欧州サッカー批評』 80-90年代のフットボールはなぜ美しかったのか?

8月サッカー本

『欧州サッカー批評
80-90年代のフットボールはなぜ美しかったのか?

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発行所 株式会社 双葉社
2016年8月8日発行 
 
今月の新刊である。僕は書店で購入し、一読、そして翌日に、懐かしさを味わいながら、じっくりと再読してしまった。80年~90年代のサッカーの歴史書として読める。
 
時間とスペースがなくなった現在のサッカーと比較すると、時間とスペースがなくなっただけで、こんなにもサッカーが美しくなくなってしまうとは、と考える。しかしサッカーに限らず、人々の暮らしも現代に比べて、昭和の時代は、時間がゆっくりと流れ、穏やかで、笑顔があって、心はとても豊かだったように思う。
しかし、「美」に関していえば、美しさの観点や意識は長い歴史で変わることが証明されている。例えば、平安時代の女性は、ぽっちゃりでどちらかと言うと太り気味の女性がもてはやされた。源氏物語絵巻に描かれている女性たちはみんなふくよかである。
80~90年代のサッカーも現在、近未来からすれば、「どこが美しいの」的な発想になってしまうかもしれない。「こんなサッカーが美しいと呼ばれていた時代があったんだね」と言われてしまうかもしれない。みんながハードワークをして、みんながフィジカルが強く、みんな身体がでかいサッカーの傾向になっている。もしかしかしたらこの本は、サッカーが進んでいく方角、方向への警笛かもしれない。
 
後藤健生
80-90年代のフットボールはなぜ美しかったのか? ファンジスタの記憶~現代に失われた「魅惑の個」と「ロマン」を探る~
加部究
ACミラン&EURO88「オランダ革命」~オランダ代表とミランの黄金期を支えた大男たちがもたらしたものとは~
六川亨
1982年スペインW杯・美しきセレソン~「美しいサッカー」を語る際、このチームを避けて通ることはできない。ジーコファルカン、セレーゾ、ソクラテスの4人が躍動した82年スペインW杯のブラジル代表、「黄金のカルテッド」それは王様ペレと並んで、王国の華麗なサッカーの象徴だった。
北健一郎
ファンタジスタはなぜ生まれ、なぜ消えたのか?~あの頃、ピッチの中央にはいつも「10番」の姿があった。攻撃の全権を担う「司令塔」という役割が、華麗なテクニックと豊かな創造性を備えた「ファンタジスタ」という天才たちに託されていた時代、あの頃、彼らはなぜゲームの主役足り得たのか、そして今、ピッチの中央からなぜ消えてしまったのか。
杉山茂樹
美しきフットボールを目指した名将とその系譜~サッカーの進化を後押しする「美しさ」という価値観
国吉好弘
忘れえぬ、東欧サッカーの美しき輝き~激動の時代に彼らはなぜ、強者でいられたのか?
北條聡
なぜ美しきフットボールは消えたのか?「95年ボスマン判決後」の欧州サッカー界を読み解く~未来にあるのは「共栄」か、それとも「衰退」か。
 
著者を先にあげた。この著者たちは、日本サッカー評論家のトップ・トップであると僕は思っている。言うまでもなく、サッカーの切り口が鋭く、説得力がある。僕がどうのこうのという問題ではなく、この方々の書いた文章を味わうことより、近未来のサッカーが見えてくると思う。