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『サッカー派の日本観』

サッカー本 0106

 

『サッカー派の日本観』

 

著 者 荘田 通

発行所 株式会社 文芸社

2023年5月15日発行

 

発売して間もない新刊である。世間でよくあるサッカー派か野球派という2択での、サッカー派の視点で現在の日本を考察した(サッカー派からすれば)面白い本である。

著者が始めから述べている通り、著者はサッカー関係者でもなんでもなく、一介の外資系サラリーマンを経て外資コンサルタント会社の代表をしている。この本の面白さは、サッカーよりの視点で、日本のメディアとスポーツの関係(主に報道の仕方)に、疑問を投げかけている点である。

 

ある小学生が「どうして野球が好きなのか」という質問に対してのコメントから、始まる。

「だって、日本は野球でWBCとかで世界一なのに、サッカーはワールドカップとか言っているけど、決勝トーナメントにだってなかなか行けないし、ベスト16がせいぜいじゃない。世界で全然強さが違う」

 

著者の独特の切り口(普段、僕も感じている疑問)から、両スポーツの現状を比較、概観しその状況を把握している。キーワードは国際性、多様性、統合性である。そのような観点から、少年のコメントは特殊な問題ではなく、我々の周囲の実に多くの人々が彼と同様の感覚を持っていて、「世界の視点で物事を見る感覚の欠如に陥っていると」危惧している。

その原因の1つとして、日本メディアの報道の仕方、あたかも野球が世界のスポーツの中心であるかのような野球偏向に強い違和感を抱いている。「野球そのものが世界的に見て、日米を中心にした地域限定のローカルスポーツであり、マイナースポーツである点は誰も否定できない」とサッカー派ならではの視点である。

WBCとワールドカップを比較しながら、数字(参加国、観客動員、賞金など)を列挙して、サッカーの優位性、国際性を示している。

 

多様性では、2022年のチャンピオンズリーグ準々決勝、人口5万ほどの小都市にあるビジャエルが、大都市の名門バイエルン・ミュウヘンに勝ったことを始め、Jリーグでの試合を取り上げ、サッカーを通しての地方創生、地方の士気や文化面を支える有効な手段として、大きな役割を果たすとしている。

女子サッカーに関してもメディアに対して、サッカー派ならではツッコミは鋭い。日本のスポーツニュースでは報道されなかったニュースである。

2022年3月30日に行われた試合のニュースには正直度肝を抜かれた。 ~略~ この日開催された女子ヨーロッパ・チャンピオンズリーグ準々決勝のスペイン。バルセロナレアルマドリードの試合で、バルセロナの本拠地であるカンプノウ・スタジアムはチケット完売となり、スタジアムに足を運んだ観客数は、なんと9万1553人を数えたのだ。

~略~ いくらバルセロナレアルマドリードクラシコとはいえ、サッカー女子の試合に9万を超える観客が集まるなど想像だにしていなかった。そもそもが、日本でサッカーの試合で観戦できるスタジアムに9万人を収容できるキャパを持つ設備など、1つとしてないのである。

 

著者のサッカー派、野球派という区分に、読者の立ち位置からの見解はあるものの、それを差し置いても、この本のメッセージ性はこれからの日本の指針となるともいえる提言がたくさん埋め込まれている。

 

各民族が消滅しない限り、サッカーの多様性は永続する。

多様化を受容して複雑極まりない多様性の中で、その都度各自の最適解を求めていくしかない現代社会で、ワールドワイドの多様性をまさに体現しているサッカーを、単なるスポーツの一競技というだけでなく、文化を代表する一大要素として捉え、日本人の肌感覚をサッカーを通して修養していくのは、何より大切なことだと確信している。

 

サッカー派の僕としては、楽しみながら読み終えることのできた、心地よい内容であった。