ニラニスタ発・蹴球思案処

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『nakata.net』全8冊

サッカー本 0099

 

『nakata.net』全8冊

著 者 中田英寿

発行所 新潮社、講談社

 

サッカー本紹介が99回目となった。何にしようかといろいろと考えを巡らせていた。今年が韮崎高校創立100周年で、記念講演会で中田英寿が講演をするとのことなので、中田英寿の本を取り上げる。

ブログ内「サッカー本」ではすでに中田英寿関連本は4冊ピックアップされていて、今回が5冊目となる。『nakada.net』(ナカタ ドット ネット) 全8冊は、インターネット黎明期にヒデがファンとのコミュニケーションツールとして書かれたHPのメール文章を本にしたものである。

 

時には誇張され、歪曲され、ありもしないことを報道さていたヒデは、極度のマスコミ不信に陥っていた。そして自分の言葉を直接ファンに伝えたいとのことで、この手段を選び、他からは一切口を閉ざした。ヒデ本人の正直な気持ちやその時の心境が素直に書かれていて、ファンとの距離は一気に近くなった。インターネットが普及しきれていない時代に、時代に先駆けてネットで情報発信するというアクションは、さすがとしか言いようがない。

 

どれくらい先見の明があったかを歴史的に振り返えると、ヒデがメールで発信を始めた1998年には、インターネット人口普及率は13.3%しかなかった。まだWi-Fiどころではなく、ADSLも翌年に登場する時代で、GoogleAmazonも日本進出前だった。ブログサービスは更に遅く、2000年代からである。

 

1998年7月22日、記念すべき第1稿は、ベルマーレ平塚からイタリアのセリアA、ペルージャへの移籍報告だった。それ以来、nakata.netのHP内、「Hide's Mail」にアップされ続けた。そして現役引退のメッセージを一番に伝えたのもnakata.netだった。有名なタイトル「人生とは旅であり、旅とは人生である」(2006.07.03)。選手時代は7冊という大容量であり、中田の精神的成長を文章から感じることができる。

 

『nakata.net 06-08』は引退後、旅に出てからのものである(講談社)。ヒデの文章も哲学的になり、文章も奥行きが増している。紀行文としてもしっかりと耐えることのできる内容と文章である。僕はこの06-08が好きで、現役引退後2年足らずで70ヶ国、150の都市以上を訪れているその行動力は爆発的である。この経験で見て、感じたことが後の「TAKE ACTION」に結びついていく。

 

中田英寿という人間に、サッカー選手に、影響を受けた人間は少なくない。『nakata.net』全8冊は、中田英寿本人に、一番近づける本であると思う。

1ファンとして、サッカー界に収まることはない行動力は、今後も注目していきたい。