サッカー本 0084
『クリスチアーノ・ロナウドはなぜ5歩さがるか』
著 者 大儀見浩介・鈴木智之
発行所 株式会社フロムワン
2010年2月28日発行
この本は、前回紹介した本の著者高妻容一氏の研究室で学び、メンタルトレーニングコンサルタントとして起業した大儀見浩介の最初の本である。
僕は個人的にメンタルトレーニングの本が好きなのだけれど、この本の内容はメンタルトレーニングの本としては完成度がとても高い。僕もこの本に影響され、自分自身でメンタルトレーニングのテキストを(当時10年前)作ってしまった(ことがあった)。
タイトルもメンタルトレーニングを前面に押し出さずに、思わず手に取ってしまう本に作られている。僕も始めはメンタル本とは知らずに、「クリスチアーノ・ロナウドはなぜ5歩さがるのか」という単純にタイトルだけで購入した記憶がある。
序章から始まり、第1章がプレーヤー編、第2章が指導者編、第3章が保護者編になっている。
「やる気を出せ!」と言われて、あなたはどうしますか?
「集中しろ!」と言われて、あなたはどうしますか?
「気合いを入れろ!」言われて、あなたはどうしますか?
「焦るな!」言われて、あなたはどうしますか?
「リラックス!」言われて、あなたはどうしますか?
このような漠然とした指示に対し、選手のメンタルテクニック、心理的スキルを上達させるためのトレーニング法が書かれている。
保護者編も興味深い。現代のサッカーは保護者のメンタルも正しい方向へ導かないと、子ども本人も成長の弊害になってしまうし、チームが機能しなくなっている。
あなたの子どもが試合に負け、落ち込んで帰ってきました。
話を聞くと、プレーに対して監督やチームメイトから叱責を受けたそうです。
あなたはどう声を掛けますか?
あなたのこどもが試合中、ミスを連発しています。親としては、何か声を掛けて立ち直らせたいと思っています。しかし、監督、コーチはアドバイスするのを我慢しています。あなたはどうしますか?
あなたの子どもが所属するチームがメンタルトレーニングを導入し、楽しくサッカーをしようとしています。しかし、あなたが子どもの頃は厳しく、つらい練習が当たり前でした。自分の頃と比べて、現在のやり方に不満を感じているあなたはどんな行動に出ますか?
親が子どもに対してやるべきこと
親が子どもに対してやってはいけないこと
親がコーチや周りの親に対してやるべきこと
親がコーチや周りの親にやってはいけないこと
すべてこの本に書かれているので、自らの言動、行動を見つめ直すには素晴らしい本である。(とはいえ、そのような親はこのような本は残念ながら読まない)。
サッカーの世界では、2010年頃までにはほとんどのナショナルチームが、メンタルトレーニングを導入し、クラブチームでもメンタルトレーナーを置いてプログラムを組み込んでいる。2021年現在は、その勢いは加速するばかりである。著者があとがきで「当時の日本には、メンタルトレーニングを学んだとしても、それを活かすことのできる就職先がありませんでした」と書いているように、そのような時代から大きく進んでいる。心技体の「心」の部分を鍛えるトレーニングは更に重要性を増すと思われる。
【付記】
僕が20代の頃から仲の良いサッカー仲間がいて、その仲間は東海第一付属中、東海第一校(現在の東海大学付属翔洋)出身だった。中学時代に一緒にサッカーをやっていた仲間に高原直泰がいた。日本代表になった時は「あいつならなりますよ」とか言っていた。さらに日本代表には浦和レッズだった2つ下の鈴木啓太も選ばれた。当時は東海第一が全中で3連覇していて、仲間も高原と一緒に3年間で3連覇を経験した。その仲間に著者である大儀見浩介がいた。高原が清水東に進学してしまい、高校時代は大儀見浩介がキャプテンをした。僕が「大儀見浩介が本を出したぞ」と言うと「あいつが本出したんですか」と言って驚いていた。高校時代は小野伸二率いる清水商全盛だったので、群雄割拠する静岡を制するのは至難を極めた。「俺は高原派だったんですよ」といつも仲間は言っている。静岡清水のその当時の話を聞くことは、僕の楽しみの1つでもある。日本のサッカーを引っ張り、現在も様々な方面で活躍をしているメンバーの小、中、高時代の話はなかなか聞けない。どうでもいい人にはどうでもいい話なのだけれど、僕にとっては貴重なリアル話である。身近にそういった仲間がいることを改めて幸せに思う。