ニラニスタ発・蹴球思案処

蹴辞逍遥・晴蹴雨蹴

『フットボールの社会史』

6月サッカー本
 
フットボールの社会史』

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著 者 F.P.マグーン,Jr
訳 者 忍足欣四郎
発行所 岩波新書
1985年8月20日発行
 
数多くのサッカー本が出版され、そして絶版になる中で、この本は現在に至るまで長い間(34年)、生き残っている本である。現在も岩波新書で入手することができる。金額は840円(手元にある本は昔に買ったので480円)。
原書は1938年に刊行された。原書のタイトルは『蹴球の歴史・発祥から1871年まで』であり、一度絶版になったものの1966年に復刻された。
訳者は「本書の資料的価値が滅じていなく、広範かつ厳密な考証を行っているという意味で、蹴球発達史として貴重なものである」ことと「その魅力は社会学者や歴史学者ではなく文学者の手になるものだという点である」ことを評価している。
 
簡単に言ってしまえば、この本はフットボールフットボールになる以前のことが書かれている。いわば英国のサッカー前史である。中世にはサッカーらしきものをやって、当たり前のように死人がでたり、殺害者がその生首でサッカーをしたりする。
また石投げ、弓、石槍によって国防をしていた時代、民衆の間であまりにもサッカーが人気になり、その習練を妨げることになり、権力者がサッカーを禁止する「蹴球禁止法」を制定するまでとなる。
清教徒体制下では、「安息日であれ他の日であれ、我々を敬虔な心から引き離すような運動はすべて邪なものであり、禁じられるべきである」とし、「とくに蹴球技については、遊戯または娯楽というよりは、友好的格闘、親睦的スポーツ、または気晴らしというよりは、流血を伴う殺人的習練と呼ぶべきだ」と断言する。
おそらく今と比べものにならないほど荒っぽいだろうけど、「教会なんて行かないで、サッカーしよう」的な雰囲気がとても良い。やがて日曜日にはやってはいけない競技となり、国として「不法な競技」にサッカーはなってしまう。
 
国で定めた法律が全く効果をあげないので、地域では特別立法が定められた。街路でのサッカーの禁止、安息日のサッカーの禁止は、犯罪行為となり罰金が課せれることとなった。しかしサッカーのもつ何かに魅了され、18世紀には500人が民衆の祭りとコラボしてサッカーをする。オックスフォードやケンブリッジ大学でも罰金、除籍の蹴球禁止令が出される。
 
この本は、文学(小説や戯曲)の古い文献から引用が多い。「Goal」という言葉が初めて登場する文献、また蹴球の詩、比喩的表現が詳しく掘り下げられている。シェイクスピアの作品の中に「蹴球」という言葉が出てくる。有名な『リア王』にも登場する。
 
「サッカーは、その国の生活にどのような影響を与えているか」または、「その国の生活は、サッカーにどのように影響を与えているか」を、歴史的、社会的に考えてみることも「サッカー」の奥深さを知るためには、必要な勉強であると考える。