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『情熱』~全国制覇9度 帝京サッカーの真実

9月サッカー本
 
『情熱』~全国制覇9度 帝京サッカーの真実

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著 者 元川悦子
 
発行所 学習研究社(学研)
2006年12月20日発行
 
先月に同窓会記念試合で、帝京と対戦、また帝京OBとも試合をしたので、帝京高校の本を9月サッカー本とする。
高校サッカー界の名将の1人、古沼貞雄先生と帝京高校サッカー部について書かれた本である。この本の発売の前年、2005年3月に、帝京高校を退職した。まぎれもなく、高校サッカー界に古沼先生は1つの時代を築いた。
 
前月紹介本の平岡和徳の恩師、古沼貞雄先生は帝京で、選手権6回、インターハイ3回の偉業を成し遂げ、高校サッカーに大きな影響をもたらした。はっきり言って、この本の要約、抜粋は僕にとって難しい。この本が古沼先生の帝京サッカー部のダイジェスト本であるからである。本に出てくる名前はほぼ100%知っている指導者、選手ばかりで、その時代時代の試合も名勝負として今も語り継がれている。
僕は本を読むときに、本文に線を引く。改めてページをめくると、この『情熱』はすべてのページに線が引いてある。そのような本はめったにない。
 
僕らの時代の帝京は、日の丸をつけたメンバーが9人も入った超有名な選手ばかりだった。その中の1人、磯貝は天才だった。古沼先生に「長い間、サッカーの監督をやってきたけれど、磯貝ほど才能ある選手は見たことがない」と言わしめている。そして「才能のある子は往々にして努力を好まない。才能がありすぎるゆえに『自分がこうなりたい』という気持ちが薄いのかもしれない。『ちょっとやればできるから』と軽く考えがちなのだろう。自分は最後まで彼を本気にさせることができなかった」と書かれている。そのためか他の代に比べて、この世代は多くのページが割かれている。
 
「選手たちはいつもお客さんだったような気がします。どこへ行っても『スター軍団の帝京が来てくれた』と騒がれ、観客も集まる。愛媛の南宇和に招待試合で行ったときなんか、先方がホテル2泊分と飛行機代まで持ってくれた。そこに2000人ものファンがやってきた。まるで大名行列じゃないかと私なんか思ったほどです。それで選手たちは舞い上がるどころか、淡々としている。そんな立ち振る舞いは過去の選手たちにはありませんでした。
選手権の宿舎での食事を残した選手も初めてみました。
 
と続く。同時代にサッカーをした僕にとっては、指導者、現場レベルでの選手、そして時代性と、今になっていろいろ感じるところがある。
 
高校サッカーの監督を始めて20年は経っていたけど、これほど計画通り行かなかったチームも初めてでした。
「一生懸命さや、がむしゃらがオシャレじゃない世代」だったのかもしれない。
 
一生懸命やらないことの方が、かっこいいと思っている風潮であったあの時代、一生懸命することの方がかっこいいと思っていた人が、どれくらいいたのだろうかと考える。
いずれにしても、高校サッカー全盛期だったことは間違いない。そしてその頂点にいたのが帝京高校だった。日本全国の指導者も選手も「帝京を超える」「帝京を倒す」と考えていた時代だったと思う。