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『凡事徹底』

8月サッカー本
 
『凡事徹底』
~九州の小さな町の公立高校からJリーガーが生まれ続ける理由

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著 者 井芹貴志
発行所 内外出版社
2017年9月10日発行
 
高校サッカー本が数多く出版される中で、今度はこの高校の本がでそうだなと予想していたのが、大津高校、平岡監督の本であった。昨年9月に大津高校のOBである井芹貴志氏が著した本である。
 
目次
教師 平岡和徳の指導哲学
サッカー人・平岡和徳のルーツ
大津高校サッカー部・前史
受け継がれる平岡イズム
 
大きく分けて、4つに分かれている。その中でも「教師 平岡和徳の指導哲学」は読むに価する。
同じ公立高校であり、学ぶべきところが多く書かれている。
 
大津高校サッカー部は、公立高校でありながら、50人ものJリーガーを輩出している。高校サッカーでの最高成績は、選手権はベスト8、インターハイは準優勝である。インターハイの準優勝は2014年。開催地は山梨だった。
僕は、韮崎の会場で大津戦を何試合か観戦した。話題となったのは、平岡監督の息子がいたことだった。決勝では東福岡に、延長で負けてしまった。
 
「サッカー人・平岡和徳のルーツ」では、平岡の父の話が圧巻である。
京進学を決断したことで、父とは勘当になった(勘当の意味合いは幅広く、父にとっては様々な思いが勘当という言葉に込められていた)。
平岡の父は、平岡が3年生の時の、高校サッカー選手権決勝(帝京‐清水東)になって、初めて上京する。優勝を見届けた父は、その日のうちに熊本へ帰ってしまった。
【本文抜粋】
「下宿に帰って、3年間のお礼を言わなきゃと思っていたんですが、下宿のおばさんが言うんですよ、『平岡君、まず座りなさい』と」。
下宿先のおばさんは平岡を目の前に座らせ、姿を見せた父・重徳の様子を伝えた。
「『あなたのお父さんはすごい人でした』と。父はこう言ったそうです。『平岡の父です。3年間、愚息の面倒を見てもらい、ありがとうございました。すみません手ぬぐいを貸してもらえませんか』と。それで何をするか見ていたら、私が3年間使った下宿のトイレと風呂を全部、手ぬぐいを使って拭いていたと。その話を聞いて、『やっぱり親父はすごいな』と、気づいたら号泣していましたね」。
 
「この親にして、この子あり」と言わざるを得ない逸話である。
「凡事徹底」という言葉は、平岡の指導哲学の中心に位置する。「当たり前のことを、当たり前にやる」という意味と「当たり前のことを、人並み以上に、一生懸命にやる」という深い意味がある。
一読のみならず、機会があれば、何度も手に取りたい本である。
 
 
 
付記
白い車が止まっていて、車内で本を読んでいる人がいた。サッカー部の今村監督だった。なんの本を読んでいるのだろうと、気になって近寄って見ると、『凡事徹底』だった。本の流れから、本人平岡和徳の楽しい逸話を聞かせてもらった。
 
今年のインターハイ、大津は初優勝できるだろうか。