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『高校サッカー勝利学』 〝自立心〟を高める選手育成法

11月サッカー本
 
高校サッカー勝利学』 〝自立心〟を高める選手育成法

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著 者 本田裕一郎
発行所 カンゼン
2009年6月29日発行
 
高校サッカー界の名将、本田裕一郎先生の名著であり、いまだ多くの指導者、高校サッカー関係者に広く読まれている本である。
 
はじめに 勝利にこだわることで心を鍛える
第1章 とにかく〝勝ち〟にこだわる
第2章 すべては失敗から学んできた
第3章 自由が奪った“勝利への執念”
第4章 〝自立心〟を高めるチーム作り
第5章 日本サッカーに足りないもの
おわりに 今、鍛えなくていつ鍛える
 
僕が無意識に使う言葉が、この本には多く出てくる。8年前に読んだ本である。改めて再読すると、本田先生の言葉に影響され、自分の中に刷り込まれていることが分かった。
この本のサブタイトルである〝自立心″を高めることが本田先生のサッカー哲学であり、勝利メソッドである。昭和の陽明学者・東洋思想家の安田正篤、孔子の『論語』、『孫子』の兵法書などに影響され、独自の選手育成論を展開している。
 
本田先生の特徴は、ヨーロッパ的な思想より、日本人が本来持つ徳育、敬いや感謝に重きを置いていることである。勝つためにまずは、サッカー選手である前に人間としてどうあるべきかを深く掘り下げ、それを実践している。あいさつ、靴をそろえること、箸の持ち方など、日常生活をとても大切にしていることである。そこを出発点とし、ヨーロッパ的なサッカーエッセンスを加えている。そして何より、子どもたちを良く見ている。メンタリティーが年々変化していることを感じ、本田先生の言葉でいう「気概」を持った選手が少なくなっていることを感じている。昔では当たり前のことが、現在の子供はできない。そこに重きを置いて(特に流経からは)、指導している。
 
個人的に好きな所は、有名高校との対戦や名将といわれる監督たちとの交流と影響を受けた時の叙述である。その時の事を想像すると、ぞくぞくする。習志野高校の前任の西堂先生と国体選抜で九州遠征した時、西堂先生が「現地解散」をして、子どもたちは九州から千葉に問題なく戻ってきたというくだりも好きである。
 
共感を受ける部分はまだある。最後の章の「オシムが日本人に与えた〝理不尽″」である。「経済的にも環境的にも、不自由のない中で育った私たちのメンタリティーを、特にスポーツの分野でどのように鍛えていくのか?これは最大のテーマでもあります」。
 
時代と共に人間が変化し、それに伴って指導方法も変化する。スパルタが当たり前だった時代から、水を飲めなかった時代から、大きく変化している。環境の変化を敏感に察し、自らの指導法を試行錯誤する本田先生の順応性は、読んでいてとても感銘を受ける。