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『サッカーとイタリア人』


11月サッカー本
 
『サッカーとイタリア人』

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著 者 小川光生

発行所 光文社
2008年12月20日発行 
 
選手権の季節にふと読み返したくなる本である。初めて読んだ時からもう7年もの歳月が経っているかと思うと、ちょっと不思議な感じがする。毎年、毎年、この本を手に取っている。不思議と古さを感じない。僕が読み返しているところは、「あとがきに代えて」のセンテンスである。
 
この「あとがきに代えて」は名文であると勝手に思っている。帰属意識、・郷土愛を藤枝東高に感じ、そのことをしっかりと文書にしている。僕が韮高サッカー部に感じるそれと同じである。ここでは「あとがきに代えて」を抜粋するけれど、時間があったら全文を読んで欲しいと思う。
 
(本文より引用する)
 さて、この本では、イタリアサッカーとカンパニリズモの関係について自分なりの考えを述べてきたつもりだ。私事で恐縮なのだが、最後に、僕自身のフランチャイズシップあるいはカンパニリズモについて少し触れさせてもらいたいと思う。

 僕は、静岡県藤枝市の出身である。高校は地元の藤枝東高に進学した。だから、僕の心のチームは、今でも藤枝東高サッカー部である。サッカーを応援する者にとって、“帰属意識”とは絶対的なものである。僕は藤枝で生まれ、藤枝で育ち、地元の藤枝東高で学んだ。だからあの藤色のユニホームへの帰属意識は一生消えない。消したくても消えない。僕の心のチームは、これからもずっと、東高サッカー部だと思う。
 2008年1月、東高サッカー部は、第86回全国高校サッカー選手権大会において、34大会ぶりに決勝に進出した。彼らが、全国の舞台で勝ち進んでいる頃、僕はヴェネツィアでCF撮影の通訳の仕事をしていた。全国行きが決まった時、どこまで勝ち上がるか楽しみにはしていたが、まさか決勝に駒を進めるとは考えておらず、仕事を入れてしまったのだ。ところが、決勝進出が決まってから、もういてもたってもいられなくなった。「自分の心のチームの国立競技場での晴れ姿を見逃すわけにはいかない!」。決勝の前日、気が付けば、僕は、撮影の打ち上げの出席をキャンセルさせてもらい、日本行きの飛行機に飛び乗っていた。
 
 ユーロ2008準々決勝、イタリア代表は、スペインにPK戦の末敗れ、W杯、ユーロ連続制覇の夢を断ち切られた。敗北の瞬間、僕の胸には、なんとも説明しがたい絶望感のようなものが込み上げてきた。それは、06W杯で、日本代表のグループリーグでの敗戦をドイツの地で目の当たりにした時の気持ちに似ていた。しかし、その2つの敗北感も、高校3年生の秋に焼津市営グランドで感じた敗北感に比べたら、本当にちっぽけなものだったように思う。
 
 1988年11月6日、第67回全国高校サッカー選手権静岡県大会のベスト8で、藤枝東は清水商業に2-3で惜敗した。当時の清水商業は、FW三浦文丈山田隆裕、MF藤田俊哉、DF大岩剛藤枝東戦では途中交代)など、その後Jリーグ、日本代表で活躍する選手が揃った強豪チームだった(当時1年生だったMF名波浩も、サブとしてメンバー入りしている)。彼らは、その後順当に勝ち上がり、全国でも頂点に立った。

 一方、我らが藤枝東高校も、その後、セレッソ大阪でプレーするFW見崎充洋、DF稲垣博行、ホンダFC、藤枝市役所で活躍することになるMF井川剛志、GK五十川訓久など好選手を擁していた。彼らは、僕の高校の仲間であり、憧れの選手たちだった。当時まだ純粋(?)僕は、彼らが国立競技場に立つ姿を心から夢見ていた。だからこそ、あの日、声が潰れるまで彼らのことを応援したのだ。

 彼らが負けるなどとはこれっぽっちも思っていなかった。強豪清水商業が相手でもそんなことは関係なかった。オレの友達は必ず勝つ。0-3でリードを奪われた時も、そう信じて疑わなかった。サッカーの試合を観ていて、あの時以上に強い思いを感じたことは、後にも先にもない。
 Jリーグのチームでは、ジュピロ磐田のファンだ。イタリアのチームでは、インテルキエーヴォに親近感を持っている。もちろん、日本代表のことも常に応援している。しかし、イタリアのスタジアムで感じる強いフランチャイズシップ、カンパニリズモが僕の中にあるとしたら、それは東高サッカー部へのものしかない。


韮高サッカー部の今年の選手権。準々決勝の山梨学院戦でも多くの韮高の生徒が足を運んでいた。部活動の終わりなのか、わざわざ応援に来たのかは分からない。試合が始まっても次から次へとサッカー部が扇動して応援する近くに集まってきていた。誰もが皆、仲間は学院に勝つと信じていたと思う。そして力の限り声を出して応援していた。文字通り「彼らが負けるなどとはこれっぽっちも思っていなかった」。

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本からかなり脱線してしまったけれど、この本の内容もかなり面白い。リーガエスパニューラ、ブンデス、プレミアよりもセリエAがやっぱり好きだなと思うサッカー好きには、たまらない本である。