ニラニスタ発・蹴球思案処

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『イレブンよ熱き大地を駆けろ』

『イレブンよ熱き大地を駆けろ』

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著 者 勝沢 要

発行所 テレハウス

1986年11月10日 発行

第1章 学生スポーツの本分を守れ
第2章 集中力の高い練習はこうして生まれる
第3章 サッカーとは格闘技である
第4章 「精神力のサッカー」から「考えるサッカー」へ
第5章 栄光 われに在り
第6章 トータル・サッカーを目指して
 
この本は「サッカーの本質」というより「高校サッカーの本質」をしっかりと捉えている。今から29年前に発行された本であるが、「高校サッカーの本質」の的を射ているだけあって、現在読んでも全く古さを感じることはない。現在でも普通に通用するし、現代の高校サッカーが忘れてしまいそうな、または忘れてしまった本質がぎっしりと詰め込まれている。
 
この本は清水東サッカー部の監督だった時代に(僕が尊敬してやまない)勝沢要先生が執筆された本である。定価は980円。しかし現在は古本市場では高値で取引されている希少本である。僕の座右の書の1冊でもある。僕も長年、全国で名将と言われる監督が執筆した本を読んできているけれど、この本のレベルを超える本は出ていないと思っている。
 
本の内容に触れると、まず第1章からしびれる。高校サッカーの哲学がこの第1章に集約されている。自称、進学校(?)の韮崎高校の現役のサッカー部員には事ある毎に目にしてもらいたい名文が詰め込まれている。一部を長いけれど引用する。
 
1、サッカーを取ったら何もない人間になるな
2、日常生活のごく当たり前のことができない限り決して当たり前のプレーヤーなることはできないし、それを超えてもっと素晴らしいプレーヤーになることもできない。当たり前のこと(常識的)のできる選手になれ。勉強も当然、当たり前のようにやれ
3、いつも目が輝いている選手になれ。目は意志、積極性、自主性、闘争心、研究心のあらわれである。目は知性と情熱がなければ輝かない。
4、セルフコントロールのできる選手になれ。暴飲暴食、怠惰、非行、激情など心の中にあらゆる嵐が吹き荒れても、自分でそれをコントロールできる理性をもて。そうすることにより知性が生きてくる。
5、校内で愛されるサッカー部になろう。クラスの仕事、学校の授業に手抜きをするな。そして友人を大切にしよう。
6、サッカーの勝負の原点は最終的に、一人一人の人間性の追求にある。
 
色々な情報を簡単に手に入れられる時代、そしてプロの選手を育てることを第一目的としたJの下部組織が日本全国に点在する時代にあって、高校サッカーの存在意義、高校サッカーの本質を再確認する上では、最良の書ではないかと思う。
 
 
余談ではあるけれど、勝沢要先生に清水東時代、指導を受うけたサッカー部OBは現在、日本サッカー界で活躍している。G大阪の長谷川健太監督、清水エスパルス大榎克己監督、松本山雅反町康治監督(J1の監督が3人もである)。VF甲府の元監督大木武さん、内田一夫さんなど他、挙げればきりがない。そしてVF甲府にもヘッドコーチとして今年は望月達也さんが就任した。この本では望月達也さんについて多くを割いている。清水東の歴代キャプテンの中でも1、2を争う名キャプテンだったようだ。同級生には反町や沢入がいる。
 
韮崎がらみで、更に余談なのだけれど、望月達也さんがキャプテンだった昭和56年のインターハイで韮崎は準決勝で清水東と対戦している。この準決勝は三ツ沢球技場(現ニッパ)で行われ、高校サッカーでも歴史に残る試合となった。準決勝、歴史に残る試合とは、インターハイ史上初のナイター開催であったことだ。事実上の決勝戦と言われたが韮高は0―3で破れ、清水東はインターハイ2連覇を成し遂げた。
 
だいぶ脱線してしまったけれど、「あとがき」も名文である。最後に引用する。
 
三年間お互いに技を磨き、体を鍛え、心を通わせ、友を作り努力することの大切さを学んだスポーツ体験を、自ら立派に生きていく明日へのエネルギーに置き替えられることを願ってやまない。